幻・想・熱・帯・雨・林

Enma Cricket/閻魔蟋蟀/Teleogryllus emma


タイワンエンマ・幼虫

タイワンエンマ・亜成虫
 古くから日本人に馴染み深いコオロギの一つとして、エンマコオロギはその筆頭に挙げられるでしょう。最近ではそういう趣味は廃れてしまっているようですが、虫籠で飼育して秋に風流を愉しむコオロギといえば、エンマコオロギであったと思います。
 エンマコオロギは閻魔の様に恐ろしい貌、という事でその名前が付けられたとされますが、見た感じそんなに怖くありません。然し精悍な顔つきで、眉状模様がきりりとしていて、怖いというよりは、威厳漂う風貌をしている、という意味合いで命名したのではないかな、等と思います。
 鳴き声は切なく儚く涼やかで、コロコロコロ、と素早く鳴き、暫くするとコロコロコロリー、コロコロリー、と鳴きます。コロコロコロリーリーリー、かなぁ? 結構素早い鳴き声なので、「なんでコロコロリーという擬音表現なのか?」と最初は戸惑うでしょうが、聞き慣れてくるとそう聞こえるようになる……かも?(笑
 我が家の周辺にも嘗ては、この鳴き声が聞こえた気がします。

 時にエンマコオロギと呼称されるコオロギには、エンマコオロギ/Teleogryllus emmaと、同属のタイワンエンマコオロギ/Teleogryllus occipitalisがいます。
 タイワンエンマコオロギは眉状模様がより太く鮮明とされ、日本にも帰化していますが、鳴き声が明らかに違い、リーリーリーと鳴きます。鳴き声としては、此方の方がやや強い感じがしますね。
 
 日本人は虫の音というものを風流として愉しむ趣向があるらしく、西洋人には蝉の声、蟋蟀の声というのは雑音にしか聞こえないそうですね。ドラマなどで夏のシーンで蝉の鳴き声が入っている場合、「この雑音は何だ?」と文句が来るので、セミの音声を削除するのだとか。
 蟋蟀を音色を愉しむ為に飼育するのも、また一興ではないでしょうか?

 エンマコオロギは、外見上はフタホシコオロギと同じ黒色系ですが、本種の幼虫は背中に白く横に線が走ります。
 大変格好良く、鳴き声がフタホシコオロギのように五月蠅くもなく、最大では40mmに達する個体もいるとの事で、餌昆虫としてこれほど向くコオロギも無いと思われるのですが、エンマコオロギはその分布を北海道にまで広げている為、その卵は越冬をしないと孵化しないという性質があります。
 数多くの日本産直翅目の昆虫が、この卵越冬であり、故に通年繁殖には冬化処理を要する為、大量繁殖が実質不可能となっていました(コスト面から割が合わないからでしょう)。
 冬化処理、春化処理は蛇の繁殖では有名かと思いますが、コオロギは成虫ではなく卵で冬を越します。秋口に孵化してしまうと、冬の寒さに耐えきれず全滅することになりますから、卵は10℃程度の寒さを一定期間以上感じないと絶対に孵化しません。此は直翅目の昆虫に限ったことではなく、例えば農作物でも秋まきの品種というのは沢山あります。
 四季という世界でも一風変わった自然環境の周期に、繁殖の周期を合致させるという動植物たちの適応能力は感嘆すべき事ではあるのですが、餌昆虫として通年繁殖させたい場合には冷却コストを要するというこの特性は致命的な問題点です。

 さて、そんな中、周年繁殖可能と銘打って登場したエンマコオロギが居ます。HBM2003にてひっそりと販売されていた此の閻魔蟋蟀は、沖縄などに分布する、所謂タイワンエンマコオロギのようです。
 琉球列島には冬が無い故に、其処に生息する蟋蟀たちは越冬のプログラムを持たなくなっており、よって周年繁殖が可能なエンマコオロギとして見出された訳です。

 飼育に関してはまだ始めたばかりですが、24℃程度でも問題なく飼育出来るようですが、温度により成長速度が顕著に左右されるので、28℃ほどの温度で飼育した方がよいでしょう。

 餌はヨーロッパイエコオロギのものと同じ植物性蛋白質メインのものを使っていたのですが、やや食いが悪く、動物性蛋白質の方を好むような気がします。明らかに食が違いますから……

 この辺の食性の調査、断水への耐久性、共食い等の問題点は実験の中で見出さねばなりませんが、現在は数を増産することを主眼に置いている訳で、そんな実験をする余裕がありません。いずれ数が増えていけば遣ろうと思いますが……ちなみに、サイクルは90日であるそうですが、温度を高めに飼育すればもう少し短い、二ヶ月ちょっとぐらいみたいです。
 音色には清涼感があり、聞いていて飽きが来ません。音色を愉しむ為だけにでも飼育する価値のあるコオロギであると言えるでしょう。